“書く”という仕事に就く人間として
これほどまでに勇気付けられるバイブルはそうそうないでしょう。

 

 

〆切本
左右者編集部/2300円

 

クリエイティブな仕事に就いている人であれば(そうでない人も?)
避けては通れないのが「締切」。

もちろん、私も日々「締切」というものを
頭に置きつつ過ごしております。

 

どんな文豪であれ、
どんな知識人であれ、
有名無名問わず人を苦しめるのが「締切」である、
それを教えてくれる一冊。

それが、この「〆切本」であります。

 

5つの章に分かれていて、
第1章は締切を前に苦悶する作家の言葉が記されています。

夏目漱石も、太宰治も、松本清張も、
藤子不二雄Ⓐも、長谷川町子も、
その他大勢、みんなみんな
迫りくる「締切」というものに苦しめられたのです。

「締切」を前にした彼らはそれぞれに、
期日を守れない言い訳や、編集者への謝罪の文言を考えます。

なかには完全に開き直ってしまい、
編集者のせいにしたり、期日を遅らせてもらうことを当てにしているなんて作家も。

 

もっとも、大作家というのは締切を守らない人が多いというのは
ある程度知られていることでもあって、
それ自体はなんら不思議ではないのですが、
なんだかんだで彼らも締切を前に苦しんだり、
見苦しいまでの言い逃れをしてしまおうなんて魂胆が
活字になるとまぁ滑稽で。

何より、よくこんな締切に追われ四苦八苦する自らの姿を
文章として残しているあたりが大作家らしいなとも思うわけです。

 

第2章以降は、作家と担当編集者との駆け引きや
締切を「必ず守る」スタンスをとる作家のポリシーや持論、
日々迫る「締切」を原動力に執筆に励む作家の言葉などがまとめられています。

とはいえ、この本の大枠は
やはり第1章に集約されていると言ってよいでしょう。

 

作家と呼ばれる人たちは、なぜ締切を守れないのか、
はたまた守らないのか。

こればっかりは編集者だった私からすると、
正直なところ「そういう生き物だから」としか
説明のしようがありません。

もうね、仕方がないのですよ。

この辺は作家を相手にする編集者も分かっていて、
本来の締切より大幅に先んじて“作家用の締切日”を設定して
対処をするのです。

ただ、作家も自らに課された“締切日”を
多少無視したって大丈夫なことくらい、
経験上分かっている。

そんな意識を作家と編集者とがぶつけ合いつつ
それなりの折り合いをつけて書籍の発行にこぎつける。

何なら、作家の書いた原稿が「やっとの思いで手元に届く」
そういったシチュエーションを編集者が楽しんでいるのではないか、
そんな見立てをする作家も存在していたり。

これについては、私も同意こそできないものの
不思議と理解ができてしまうのであります・・・。

まぁ、締切をきっちりと守る作家からすると、
そんな編集者の姿は「酔っ払っているとしか思えない」そうですが(笑)

 

私の経験を少し書かせてもらうと、
雑誌時代に巻頭または巻末でコラムを連載していたのですが
これが本当に大変でした。

ひょんなことから書き始めたのですが、
フリーテーマにしてしまったこともあり
月々(月刊誌だったので)どんなことを書こうか悩むわけです。

雑誌全体の締切が毎月初旬、
コラム執筆は締切日の2日前と自らにルールを課していたこともあり
その日の晩は毎月のように頭を抱えていたのでした。

一冊の本を作るために、毎月真剣勝負をしていることを書いていきたかったのですが、
内情についてや、目の前で起こった事象に対しての持論展開が
思うようにできなくなったこともあり(いろいろあるのですね)、
結局は時事ネタに持論を加える、そんなことの繰り返しになっていきました。

世の中のことを知り、学ぶといううえではプラスになったのですが、
さして強くない分野でもあるゆえ、自らの考えをまとめることすら難しかった。

何を書いたらよいか、と同時に
書くことの意味や意義を考えては答えが見出せない、
それが毎月だと思うと、頭を抱えずにはいられないものです。

当時はエディターとライターを兼ねていたので、
自分のことで甘えが許されないというのもありましたし。

 

大作家に並べて自身の経験を書くこと自体
おこがましい話ではあるのですが、
立場や制作物の大小問わず、
クリエイティブな仕事をしている以上は
前述したように「締切」は避けて通れないものなのです。

それでも、この本を読むことで
誰もが「締切」に苦しめられ、悩まされ、
時には泣かされていたのだと思うと
自分の身に起こっていることなど小さなものなのだなと
心底励みになるのです。

みなさんもよろしければ、
この本を通じて共感したり、
苦しみ悶える物書きたちの姿を笑ってやってください。

 

ただひとつ、
どんなに忙しかろうと、大変であろうと

締切は守るべきである

これだけはきっぱり言い切れます。

指定された日を守っていれば、
きっとよいことが訪れるはずです。

 

私も、文豪たちの文言を拝借・・・
なんてことはくれぐれもなきよう、
締切を守りつつ仕事をすると誓います。

 

それでは。

The Syunsuke FUKUMITSU
福光 俊介

 

Comments

comments